平成28年度税制改正の概要

H27年12月24日に閣議決定したH28年度税制大綱ですが、
皆さまに知ってほしい内容からご紹介してます。
あくまで税理士の個人的な順序でご紹介しますこと、ご了承ください。

Ⅰ.個人所得課税関係

【空き家に係る譲渡所得の特別控除】

H28年度税制改正大綱の中の目玉となる改正かと思います。
H27年5月施行のの空家対策法が「鞭」なら、
今回の改正は「飴」ということでしょうか。

被相続人居住用家屋(相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた昭和56年5月31日以前に建築された家屋で、被相続人以外に居住をしていた者がいなかった家屋)及び土地を相続により取得した者が、H28年4月1日からH31年12月31日までの間に譲渡をした場合(相続開始日以後3年を経過する日の属する12月31日までの間にした譲渡)、居住用財産の譲渡所得の3,000万円控除を適用することができます。

対象 状況 被相続人が相続開始直前まで一人暮らししていた自宅で、相続後は空家であること
同居人がいる場合は特例適用不可
種類 一戸建ての住宅であること
建物のみ・土地建物・建物を解体して土地のみの譲渡でも適用可能
年月日 対象の自宅が昭和56年5月31日以前に建築されていること
譲渡関連 控除額 譲渡所得金額から3,000万円控除可能
期間 相続開始日以後3年を経過する日の属する12月31日まで
H28年4月1日からH31年12月31日の間の譲渡であること
価格上限 譲渡価格が1億円以下であること(1億円超は適用対象外)
留意点 耐震性 譲渡時の耐震規定に適合していること(不適合は特例適用不可)
空き家 相続の時から譲渡の時まで、土地や家屋を事業・貸付・居住の用に供していないこと
区分所有 区分所有建築物(マンション等)は特例適用不可
確定申告 地方公共団体の長等の証明添付が必要

大綱には『当該相続の時から当該相続の開始があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にしたものに限るとし、』との記載がありまます。
3年経過した日の属する年の年末までですから、H25年1月2日以降に発生した相続は要件を満たすことで特例の適用対象とすることができます。

【三代同居改修工事等に係る住宅ローン控除】

H28年4月1日からH31年6月30日までの間に、
三世代同居改修工事等をして、居住の用に供した場合、増改築等に係る住宅ローン控除の対象になります。

    1. 増改築等に係る住宅ローン控除と選択適用
    2. 一定の三世代同居改修工事に係る工事費用(250万円が上限)に相当する住宅借入金等の年末残高の2%
    3. 上記以外の住宅借入金等の年末残高の1%

※一定の三世代同居改修工事は、調理室、浴室、便所、玄関のいずれかを増設する工事であり、かつ、工事費用(補助金等がある場合は補助金等を控除後)の合計額が50万円を超えるもの

【既存住宅に係る三世代同居改修工事をした場合の所得税額の特別控除】

H28年4月1日からH31年6月30日までの間に、
三世代同居改修工事等をして、居住の用に供した場合、
三世代同居改修工事に係る標準的な工事費用相当額(250万円が上限)の10%に相当する金額を所得税の額から控除されます。
ただし、三世代同居改修工事に係る住宅ローン控除との併用はできません。

【医療費控除の特例の創設(セルフメディケーション推進のためのスイッチOTC薬控除)】

H29年1月1日からH33年12月31日までの間に、健康の維持推進及び疾病予防への一定の取り組みを行った方が、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る一定のスイッチOTC医療品の購入をした場合、購入代金のうち年間1万2,000円超える金額(上限8万8,000円)について控除を受けることができます。
ただし、現行の医療費控除との併用はできないため、医療費控除とどちらかを選択適用することになります。
※ 「一定の取り組み」とは、Ⅰ特定健康診査 Ⅱ予防接種(医師の関与があるものに限る) Ⅲ定期健康診断 Ⅳ健康診査 Ⅴがん検診をいいます。

【非課税所得の範囲の拡大】

    • 預金利息の所得税の非課税

義務教育学校の児童又は生徒が、その学校の長の指導を受けて導入した預貯金の利子に対して所得税を課さないことになります。小学校及び中学校の児童又は生徒も同様です。

    • 通勤手当の非課税限度額の引き上げ

平成28年1月1日から受ける通勤手当について、現行の非課税限度額月額10万円から15万円まで引き上げられることになります。

    • 学資に充てるために給付される金品の所得税の非課税

平成28年4月1日以後に給付される金品について、通常の給与に加え、学資に充てるために使用者から受けた給付される金品について非課税となります。
※ただし下記のものは除外されます。

  1. 法人である使用者から法人の役員に対して給付されるもの
  2. 法人である使用者から法人の使用人(役員含む)の配偶者又は使用人の特殊関係者に対して給付されるもの
  3. 個人事業主から個人事業主の営む事業に従事する親族(生計を一にする者は除く)に対して給付されるもの
  4. 個人事業主から個人事業主の使用人の配偶者又は使用人の特殊関係者に対して給付するもの

Ⅱ.法人課税関係

【法人税率の引下げ】

現行の法人税率23.9%が以下のように引下げられます。

  • H28年4月1日~H30年3月31日の間に開始する事業年度:23.4%
  • H30年4月1日以後に開始する事業年度:23.2%

【外形標準課税の税率の見直し】

外形標準課税における所得割の税率を引下げ、資本割と付加価値割の税率が引上げられます。
また、資本割と付加価値割が増加することによる負担を緩和するため、外形標準課税の税額がH27年度より増える場合、

  • H28年4月1日~H29年3月31日の間の開始事業年度は増加分の75%が免除
  • H29年4月1日~H30年3月31日の間の開始事業年度は増加分の50%が免除
  • H30年4月1日~H31年3月31日の間の開始事業年度は増加分の25%が免除

されます。

開始事業年度
H27年4月1日以後 H28年4月1日以後
付加価値割 0.72% 1.2%
資本割 0.3% 0.5%
所得割 年400万円以下の所得 3.1%
(1.6%)
1.9%
(0.3%)
年400万円超
800万円以下の所得
4.6%
(2.3%)
2.7%
(0.5%)
年800万円超の所得 6.0%
(3.1%)
3.6%
(0.7%)

※ 所得割の税率下段括弧内は、地方法人特別税等に関する暫定措置法適用後の税率

開始事業年度
H27年4月1日以後 H28年4月1日以後
地方法人特別税 93.5% 414.2%

なお、改正による法人の実効税率(標準税率)は以下のようになります。

外形標準課税適用事業者
(標準税率)
開始事業年度
H27.4.1以後 H28.4.1以後 H29.4.1以後 H30.4.1以後
①法人税率 23.9% 23.4% 23.4% 23.2%
②法人住民税率 12.9% 12.9% 7.0% 7.0%
③地方法人税率 4.4% 4.4% 10.3% 10.3%
④事業税率(超過税率) 3.1% 0.7% 0.7% 0.7%
⑤事業税率(標準税率) 3.1% 0.7% 0.7% 0.7%
⑥地方法人特別税率 93.5% 414.2% 414.2% 414.2%
法定実行税率 32.11% 29.97% 29.97% 29.97%
外形標準課税適用外事業者
(標準税率)
開始事業年度
H27.4.1以後 H28.4.1以後 H29.4.1以後 H30.4.1以後
①法人税率 23.9% 23.4% 23.4% 23.2%
②法人住民税率 12.9% 12.9% 7.0% 7.0%
③地方法人税率 4.4% 4.4% 10.3% 10.3%
④事業税率(超過税率) 6.7% 6.7% 6.7% 6.7%
⑤事業税率(標準税率) 6.7% 6.7% 6.7% 6.7%
⑥地方法人特別税率 43.2% 43.2% 43.2% 43.2%
法定実行税率 34.33% 33.8% 33.8% 33.59%

※ 法定実行税率={①×(1+②+③)+④+⑤×⑥}÷(1+④+⑤×⑥)

【繰越欠損金の利用制限の見直し】

法人実効税率の引下げの財源として、繰越欠損金の利用制限が見直しされます。

【減価償却制度の見直し】

H28年4月1日以後に取得する建物と一体的に整備される建物附属設備や構築物・鉱業用の建物の償却の方法について、定率法を廃止し、以下の償却方法が適用されます。(所得税についても同様です)
※ 建物附属設備、構築物の減価償却方法は、定率法が廃止され定額法だけとなります。

  • 建物附属設備・構築物(鉱業用のこれらの資産を除く):定額法
  • 鉱業用減価償却資産(建物・建物附属設備及び構築物に限る):定額法又は生産高比例法

【生産性向上設備に係る固定資産税の軽減措置】

中小企業の生産性控除に関する法律の施行日からH31年3月31日までの間に中小企業が生産性を高めるために160万円以上の生産性向上設備(生産性が旧モデル比で1%以上向上、かつ、販売開始から10年以内のもの)を新たに購入した場合、3年間に限り固定資産税が50%減額されます。
※生産性向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度は、平成28年3月31の適用期限をもって廃止され、適用期限の延長は実施されません。

【地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の創設】

地方公共団体に対する寄附金は全額損金加入ですが、地方公共団体が行う一定の地方創生事業に対して寄附を行った場合に、更に法人事業税、法人住民税の税額控除が認められます。

  1. 対象となる寄附金:地方版総合戦略を策定する地方公共団体(財政力指数が1以上の不交付団体、全域が地方拠点強化税制の支援対象外地域を除く)で、かつ、国が認定した地方創生事業に対するもの
    ただし、本社の立地する地方公共団体に対して寄附を行う場合は対象になりません。
  2. 寄附金の下限額:1事業当たりの寄付金の下限額は10万円
  3. 税額控除の限度額
H29年3月31日までに開始する事業年度
法人事業税 寄付金額の10%を税額控除
(法人事業税額の20%が上限)
法人道府県民税 寄付金額の5%を税額控除
(法人道府県民税法人税割額の20%が上限)
法人市町村民税 寄付金額の15%を税額控除
(法人市町村民税法人税割額の20%が上限)
H29年4月1日以後に開始する事業年度
法人事業税 寄付金額の10%を税額控除
(法人事業税額の15%が上限)
法人道府県民税 寄付金額の2.9%を税額控除
(法人道府県民税法人税割額の20%が上限)
法人市町村民税 寄付金額の17.1%を税額控除
(法人市町村民税法人税割額の20%が上限)
  1. 適用開始時期:H28年4月1日以後開始事業年度

【雇用促進税制の見直し】

雇用促進税制について適用期限がH30年3月31日までの期間内に始まる各事業年度まで延長され、所得拡大促進税制との併用が可能になります。(所得税についても同様です)
また、現在は正社員か非正規社員を問わず雇用者数が5人以上(中小企業は2人以上)増加し、かつ、雇用増加割合10%以上等の要件を満たす企業は、適用年度における法人税の額(個人事業主の場合は、所得税の額)から雇用者増加数1人当たり40万円の控除が受けられますが、H28年4月1日以後開始事業年度より、対象となる雇用者が正社員に限定され、対象地域は雇用環境の悪い地域(有効求人倍率が全国平均の2/3以下)に限定されます。

Ⅲ.消費税関係

【軽減税率の導入】

H29年4月1日から消費税が8%から10%に引き上げられますが、消費税増税の負担を緩和するため、以下のものが8%(国税:6.24%,地方消費税:1.76%)の軽減税率の対象となります。

  • 飲食料品の譲渡(食品表示法に規定する食品(酒税法に規定する酒類を除く)の譲渡をいい、外食サービスを除く)
  • 定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞の譲渡

【適格請求書等保存方式(インボイス制度)の導入】

消費税の複数税率が導入されることから、現行の請求書等保存方式から適格請求書保存方式(インボイス制度)へH33年4月1日より変更されます。

適格請求書等保存方式が導入されるまでの間における仕入税額控除制度については、現行の請求書等保存方式が維持され、軽減税率対象品目に係るものである場合には、請求書等に記載されるべき事項として「軽減対象課税資産の譲渡等である旨」及び「税率の異なるごとに合計した対価の額」を加えます(区分記載請求書)。

①適格請求書等保存方式の導入

請求書等保存方式における請求書等の保存に代えて、
「適格請求書発行事業者」(仮称)から交付を受けた「適格請求書」(仮称)の保存が、
仕入税額控除の要件となります

  • 「適格請求書発行事業者」:免税事業者以外の事業者であって、納税地を所轄する税務署長に申請書を提出し、
    適格請求書を交付することのできる事業者として登録を受けた事業者。
  • 「適格請求書」:適格請求書発行事業者の登録番号、適用税率、消費税額等の一定の事項が記載された請求書、納品書等の書類

②適格請求書発行事業者登録制度の創設

適格請求書発行事業者の登録については、H 31 年4月1日から申請が受付けられます。
適格請求書発行事業者は、適格請求書の交付義務が課せられますが、
適格請求書を交付することが困難である一定の取引については、適格請求書の交付義務が免除されます。
なお、当該取引に係る課税仕入れを行った事業者においては、
一定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除が認められます。

③経過措置

適格請求書等保存方式の導入後一定期間については、
免税事業者等から行った課税仕入れに係る消費税相当額に
一定の割合を乗じて算出した額の控除を認める経過措置が講じられます。
※詳細はまだ決まっておりません!

【高額資産を取得した場合における消費税の中小事業者に対する特例措置の見直し】

PFI事業を行う特別目的会社における消費税還付を含め、不適切な消費税還付を防ぐため、
簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に、
高額資産(税抜価格10百万円以上の棚卸資産・調整対象固定資産)の仕入を行った場合、
高額資産の仕入れ等の日の属する課税期間から当該課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間において、
事業者免税点制度および簡易課税制度は適用できなくなります。
※H28年4月1日以後に高額資産の仕入れ等を行った場合に適用されます
(H27年12月31日までに締結した契約に基づき仕入等を行ったものは除く)。

Ⅳ.その他

【国税のクレジットカード納付制度の創設】

現在、振替納税やダイレクト納付の制度があり、銀行口座振替による納税が可能でしたが、インターネットを利用してクレジットカードによる納付が可能となる制度が創設されます。
国税の納付について、
この改正は、平成29年1月4日以後に国税の納付を委託する場合について適用されます。。

【結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の対象費用の明確化】

子育て資金には、妊娠に要する費用、出産に要する費用、子の医療費及び子の保育料のうち一定のものが対象となっていますが、不妊治療の費用が含まれることが明確化されます。

【自動車取得税の廃止と燃費税の導入】

適用開始時期:H29年4月1日より

【税務調査の事前通知後の加算税の見直し

国税通則法の改正により、税務調査の事前通知の義務化が行われましたが、加算税を回避するため事前通知直後に修正申告や期限後申告をする事例が多く見られるようになりました。これを受けて、税務調査の事前通知から更正または決定があることを予知する前にされた修正申告による過少申告加算税が5%(現行0%)、期限後申告・修正申告による無申告加算税の割合が現行の5%から10%(税額500千円以上は15%)に引上げられます。
適用開始時期:H29年1月1日より

【短期間に繰返し無申告または仮装・隠蔽が行われた場合の加算税の加重措置の導入】

悪質な脱税を防止をするため、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を賦課された者が再び、無申告または仮装・隠蔽による修正申告の提出等があった場合、加算税が10%加重する措置が導入されます。
適用開始時期:H29年1月1日より

【農地の固定資産税軽減措置の創設】

市町村が定める農業振興地域にある農地で、農地を全て農地バンク(農地中間管理機構)に賃貸して離農すると、賃貸期間が10年以上で3年間、15年以上で5年間の間は固定資産税が50%減額されます。

【耕作放棄地に係る固定資産税の特例廃止】

農業振興地域のうち、農業委員会が農地バンクとの協議を勧告した農地については、農地に係る固定資産税の減額計算の特例を受けられなくなります(固定資産税が現行の1.8倍になります)。

平成28年1月12日
町田市の税理士より